フィリピンの絵、日本の絵—植民地とはどんなことなのか

Luna

この絵を見て、皆さんはどう思うでしょう?
おそらく、フランスなど、ヨーロッパの古い画家が描いたものと考える人が殆どかと思います。

けれど、違うのです。フィリピンを代表する画家で、革命運動家だったファン・ルナ(Juan Luna)の作品(Ensuenos de Amor)です。
(ちなみにルナは1899年に亡くなっており、没後50年経過してるため、著作権の問題はありません(^^

 

スペインの植民地だった歴史をもつフィリピン。当時からの流れを汲むフィリピン財閥、アラヤの一族は、現在でもフィリピンに住みながら白人としか結婚せず、欧州系の血統を守っているといいます。
しかしルナはスペイン系ではありません。母はメスティソですが、原住民イロカノ族の出身です。弟アントニオ・ルナはフィリピン革命軍の軍人として有名です。

 

フィリピン人の西洋画家 ルナ

フィリピンでも裕福な家庭に生まれ、渡欧し美術を学んだルナの作品は、スペイン、フランス、イタリアのアカデミーの流儀で描かれています。

19世紀末、マドリッドの国民芸術展覧会で賞をとり、フィリピン人で初めて認められた画家として有名になりました。ちょっと明治、大正期に渡欧した日本人の経歴のようですね。
ちなみに、フランス人と浮気をした妻と、その母親を嫉妬のあまり殺してしまう事件を、この欧州時代に起こしています。

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ルナの画法は見てのとおり西洋風です。そして、ルナのような画家こそフィリピンでは普通の絵の大家なのです。

こちらは著作権が心配なため画像での紹介ができませんが
ルナと並ぶ大家、フェルナンド・アモルソロ(Fernando Amorsolo)の絵へのリンク

“philippines paint art”のキーワードでgeogleで画像検索しても、それはよくわかります。

たとえフィリピンの風景が描かれていても、これでは欧米の画家がフィリピンを描いたものと変わらない・・・
ふと、そんな思いがわいてしまったのは、日本人だからこその贅沢なのかもしれません。

日本にも黒田清輝のような、西洋画を学んだ名画家もいます。しかし、それは、やはりあくまで洋画という枠。日本画と呼べるものが別にちゃんとある。

教科書や教育テレビで見るような、水墨画や花鳥画、浮世絵―――西洋画と較べると地味で退屈に感じる人もいるかもしれません。

けれど、これが日本らしさだ、と言える文化があるということは、本当に貴重なことだと思うのです。

 

”和”のリソースを失いつつある日本

日本は敗戦前、アジアに勢力を伸ばしました。しかし、幸いにも同じ文化圏の地域ばかりで、期間も一世代ほどだったため、他の国の伝統や文化を消滅させるまでには至りませんでした。

一方、日本がアメリカ文化の影響を強く受けるようになって70年。敗戦した年に赤ん坊だった人さえ70歳なのです。戦後、時代が進むごとに、アメリカやヨーロッパの文化を日本風に解釈したコピーが生活の周りに増えていったのは、よく知られているとおりです。

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「The Parisian Life」 ファン・ルナ

かつて、この戦後日本の”欧米文化を日本風に解釈したコピー”という特殊なセンスは大当たりしました。独創的な家電、道具、デザイン、マンガ—日本の名を世界に轟かせた昭和の品の大多数は、戦前の教育を受けた人、もしくは彼らに教育を受けた世代が生んだものです。

けれど、最近は日本から画期的なものが生まれた話を聞かなくなりました。見るのは過去の成功例の焼き直しばかりです。もしくはアメリカなど海外で外国人がヒットさせたものを、日本国内向けにローカライズしたもの・・・。
韓国で流行したカカオトークを元に、韓国企業が日本向けに開発したとされるLINE、任天堂のキャラクターが登場するものの、企画から開発、配信までアメリカ企業によるゲームソフト、ポケモンGoなどもそうですね。

今の30代以下の若者の親世代は、多くが1950年代以降の生まれ。
戦後の日本人の原風景はアメリカドラマ」で触れました、テレビの向こうの西洋文化に憧れて育った人が多い世代です。

この世代が親になって、どんな家庭を築いたか・・・
家の中のインテリアはほとんどが洋風、子供に習わせるのは習字や剣道より英会話、バレエ、スイミング。お盆やお月見よりクリスマスやバレンタインに熱心。大晦日は除夜の鐘よりニューイヤーカウントダウンをしたい・・・

こういう人、今の日本ではごく普通ですね。彼らは子供にも、こうした西洋文化のコピーという新たな伝統、価値観を引き継がせます。
西洋文化を自国の文化と錯覚してしまっているフィリピン人のように。

そして、これはフィリピンだけではなく、英語やフランス語、スペイン語を公用語としてるような世界の元植民地の多くがそうなのです。

一方、古くからの伝統や価値観、美意識は引き継がれなくなってきています。この状態はまだまだ続く見込みです。

・・・結果、日本人は若い世代になるほど、他の国の人でもできることしかできなくなっている。それが日本の長期にわたる経済停滞にもつながっているといえるかもしれません。

なぜ独創性を失ってしまったのか?それは、日本流に解釈したくても、日本の文化を知らない人ばかりになってしまったからではないでしょうか?
油絵や水彩画は描けても、水墨画は基本からわからない・・・そんな人があふれてる――私自身も含めて。

 

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