日本から文化を奪う国々 日本人に本気で中国語を学んでほしい理由

題のように「中国語を学んでほしい」なんて文を見ると、隣国との交流云々といった記事を予想する人が多いんじゃないかと思います。

・・・しかし、ここで扱うのは、そんな内容ではありません。

 

日本の高度な学問書は漢文で書かれていた

わたしたちは歴史の授業で、解体新書など江戸時代の日本の学術書の存在を学びますね。
日本人が江戸時代から蘭学を学んでいたことは、必ずといっていいほどでてきます。

しかし、そうした蘭学含む学術書の殆どが漢文で書かれていることは、あまり触れられることがありません

かわりに源氏物語など、かなづかいの文書が資料として広く紹介されています。しかし、そうしたかなづかいの文は実際には小説など、大衆向けの文書で主に使われたものでした。

科学技術など学問に関した書物は、多くが漢文で書かれていたのです。

 

江戸時代の医学書『薬籠本草』(香月牛山著)の本文 1734年

 

和算学者 関孝和の遺著『括要算法』本文

 

現代の日本人は多くが漢文を読めません。知っている漢字の量も、過去の日本人と比べるととても少ないです。

なので古文書なども漢文のものは無造作に扱われがちです。安価で売られてしまうケースもありますね。

しかし中国人は漢文が読めます。彼らは日本書紀さえ読めるといわれています。江戸時代以降のものなど、楽勝でしょう。

・・・すると、どうでしょう?
日本の先人が丹精こめて残した知恵の遺産を受け継ぐのは、日本人でなく、中国人になってしまう可能性があるのです。

実際、以下のようなことが近年、起こっているといいます

この数年の間に日本漢籍は国外に大量流出し、今や明治10年代、昭和20年代に続き、第三のピークを迎えている。その主たる移動先は中国である。これをマスコミは「文物の里帰り」と称して、歓迎すべき事であるかのように報じているが、これは紛うことなき日本の文化財の国外流出であり、国益を損なう現象に他ならない。

「日本国外に現存する日本漢籍の総合的研究」
慶應義塾大学学術情報レポジトリ 2012年

「文物の里帰り」・・・そんな表現が使われてたんですね。

現在は、漢文の書物を自分たちの文化のものではないと思っている日本人が、それだけ多くなってしまったということでしょう。

 

日本から奪う国は中国だけではない

上記の引用に日本漢籍の国外流出ピークが昭和20年代にもあったとありますね

実は敗戦後、アメリカも日本からたくさんの古書を押収しているのです。

第二次世界大戦後、ワシントン・ドキュメント・センターから日本語関係の書物約35万冊が議会図書館に譲渡された。これらは日本の旧陸軍から没収しアメリカ本土に移管された資料の一部。本目録に収載した書目の7~8割がここに属する

http://no-blog.hatenablog.com/entry/2015/12/25/222025

この本目録とは米国議会図書館蔵日本古典籍目録のことです。引用元には続けてこうあります。

アメリカ議会図書館アジア課のJapanese Sectionが管理する書目のうち明治以前として区切られている区画の書籍(Japanese Rare Books)すべてが採録されている

 

こちらのサイトで目録の内容が確認できますが、江戸時代以前の書物、とても多いです。新井白石などもありますね。
この目録には日本では完全に失われてしまっている書物もあるといいます。

 

米軍/GHQは、なぜ日本から好んで漢文の書物を押収していったのでしょう・・・

そして、戦後の日本の教育内容の変更において、漢文の学習枠の大幅減を主導したのは、果たしてGHQだったのでしょうか・・・どうなんでしょうね。

漢学を必修科目の一つとし、「漢文を白文ですらすら読める」ほど熱心に教えてきた日本の知的エリート養成施設、旧制中学もなくなります。
(戦前のエリート教育とは→「明治~戦前の偉人たちを生んだ漢学 これが本来の日本の道徳」)

そして、戦後教育を受けた人のほとんどは漢文が読めなくなり、過去の日本人による学問的に高度な著作にアクセスできなくなりました。

 

今の日本人が読むことができず、存在も知らない江戸時代までの日本の知恵の集約物を、アメリカ人は占領後に手にいれ、現在も大事にかかえているというわけです。

そして、そんなアメリカ人による発明品、技術力を、日本人は羨望し、真似し、欧米人への憧れを深めていく・・・

・・・なんだか、とてもおかしなことになっていると感じるのは、私だけではないのではないでしょうか

 

憧れだけでは先進国ではいられない

アメリカや中国に奪われてもべつに困らない。江戸時代以前の知恵など、時代おくれの不要な文化だと思う方も多いかもしれません。

しかし、ある病気をなおすなり、建築物の建て方を計算するなり、どんな分野にせよ一つのゴールを目指すとき、複数のアプローチ方法があると知っていることは、発明、発想において重要なことだと思います。

白人のもたらす西洋式と、日本人の東洋式という、違う文化に立脚した考えによる、同じ対象へのアプローチ・・・そうした異文化の複数の視点を通して導かれるものは、対象の根本に対する理解です。本質を見抜く力ともいえるでしょう。

実際、日本が誇る過去の発明、偉人、ブランド企業の多くが、戦前教育世代から出ていることは、
過去記事「経済大国を作った戦前世代、失われた20年の戦後世代
明治~戦前の偉人たちを生んだ漢学 これが本来の日本の道徳
なぜアメリカ人やイギリス人はイノベーション力が豊かなのか」 でもとりあげています。

・・・アメリカや中国が時代遅れとも思える漢文書籍をほしがるのは、温故知新を理解しているからかもしれません。

 

西洋文化にあこがれ、西洋人の流儀をそのまま真似し、上っ面をなぞっただけでは、次のステップに繋がる発想はなかなかできない・・・

欧米の植民地だった多くの地域が忠実に西洋文化を真似てきたにもかかわらず、ほぼ全て伸び悩んでいるのは、憧れや真似だけから先進的な文化を生み出すことは難しいことを示しているでしょう。

元植民地の国々も、好きでそうなってるわけではありません。
しかし論理的で歴史的な厚みをもつ西洋文化に対抗できるぐらい豊かで、体系的な母国の文化基盤がないと、反発を繰り返しつつも、結局、飲み込まれていくしかないのです・・・

 

残念ながら近年の日本も、その傾向ですね。

格差の拡大、富裕層と貧困層の世代にわたる固定化、貧困層の肥満、LGBTの問題など、現在、日本ではいろいろな社会問題が取り沙汰されています。

しかし、こうした近年の日本の問題点の多くは、すでに英語圏で論じられてきたことを、日本マスコミや日本の学者が後追いで日本に当てはめて論じているだけなのです。

日本人自身が、日本の社会をこうすべきとビジョンを掲げて問題提起することは、少なくなっています。

 

日本人の中には、アメリカやヨーロッパと同じというだけで満足してしまう方が、熟年~団塊世代を中心に多いですね。

でも、憧れの欧米先進国を真似ることしかできないなら、日本はもはや先進国ではないでしょう。先進してないのですから。

 

日本人がわからない日本の文化を取り戻すには

紫雲膏という火傷薬をご存知でしょうか?

日本のwikiによると江戸時代に華岡青洲が明の医師の考案した膏薬に豚脂を加えて開発したものだそうです。
現在でもドラッグストアなどで売られています。

この紫雲膏について、発明したのは華岡青洲であり中国由来じゃないとアピールするネット書き込みを目にしたことがあります。

その方は、日本人の優秀さをアピールしたくてそういう書き込みをしたのかもしれません。

しかし、現在、華岡青洲の仕事について、当時の資料を原文で読んで具体的に理解できるのは、日本人じゃなく、中国人のほうです。
漢方薬もそうです。

日本国内において、東洋医学は長きにわたって西洋医学よりないがしろにされてきました。
コッコアポだの、アレパノールだの、カタカナ文字の名称がつけられた漢方薬が日本に多いのも、日本人が漢方薬より西洋薬のほうに信頼をおいている心理をついてのことでしょう。

しかし、現在、東洋医学に基づいた漢方薬は西側諸国を含め、世界的に評価されてきています。
中国では現在でも新たな漢方薬が開発されています

漢方医学は開国以前から脈々と続く日本の文化でもあります。
しかし現在、日本人で漢方薬の知識のある人は多くありません。薬草レベルから理解できる人になると、ほんのわずかでしょう。

でも、もし現代の日本人が漢文を読めれば、昔の日本人が書いた本からどんどん知識を得ることができるのです。

国会図書館は昔の日本の医学書を無料でネット公開してますからね。

 

過去記事「あの「水中花」を滅ぼすのは日本人?」で取り上げましたが
戦後まもない頃、水中花が日本の工芸品として欧米に輸出され、人気を集めたといいます。

逆にい/ば、欧米には水中花を作る技術がなかったということです。

カミヤツデという植物から作った紙=通草紙を使用しないと水中花は作れません。

昭和20年代の日本人はどの植物から作った紙が、どのような性質を持っているか、きちんと理解していました

しかし、その知識、技術は継承されていません。

今、日本で通草紙を作ろうとしたら、中華圏に頼んで技術を学び直さなくてはならないでしょう。

でも、もし、漢文が読めれば、かつての日本人の著作から何かを得ることができるかもしれません。
水中花は特に江戸時代に人気を博していたといます。

 

武士道への理解もそうです。
現在の日本人が武士道を理解するために使う資料は、新渡戸稲造の「武士道」など、明治以降に書かれたわずかな書物ですね。
明治の終わりには武士など日本にいなくなってしまったというのに・・・

武士が本当に活躍していた江戸時代以前の漢文資料は知らない/読めない人がほとんどです。

けれど、漢文が読めれば先祖の知恵や価値観を、より具体的に理解できるようになるでしょう。
(現代日本人にとって武士道とは→「武士道って説明できますか?」)

 

・・・日本人、特にこれからの世代には、中国語を本気で学んでほしいです。

せめて漢文だけでも読める人が増えてくれたらと切に思います。

日本の先人たちが残した知恵を日本人が理解できないなんてことがないように、
そして、それらが日本人以外のものになってしまわないようにあってほしいものです。

 

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