バブルは日本をどう変えた?日本人の死生観

バブルは日本をどう変えた?老いに向き合えない日本人」でバブル期に感じた日本社会の変化について書きましたが
そのほかにもバブル期に劇的に変わったと思うものがあります。
それは日本人と死の距離です。

バブル期をふりかえると、ゆとり教育の実施、新しい教科書問題が世間を賑わせていたのと同じ時期に物議をかもしていた話題がありました。
童話から残酷な描写、死にまつわる描写の多くが削除された問題です。

たとえば
かちかち山、猿蟹合戦から死や残虐な復讐のシーンが削除され、どのように変化したかが以下のまとめサイトに詳しく載っています。

 

・・・誰がこんなことを始めようとしだしたのかはわかりません。
たしか推進していた人たちの主張は、子供に残酷なものを見せると、不必要な恐怖感を植え付けたり、復讐を正しいことと思ったり、いじめや暴力に興味を持つようになるかもしれないからという理由だったように思います。

反対する人たちももちろんいました。けれども、彼らの側も死や復讐の描写を取り除くことによって、どのような悪い結果が生じるのか説明できる人はいませんでした。

結果、改変された童話は一般に広く普及していきました。
ある意味、ゆとり教育同様に、大きな実験だったと思います。

また漫画やアニメ、ゲームといったコンテンツの内容にも大きな変化が訪れました。

現在の子供向け作品では、死を覚悟で仲間を守ろうとしたメンバーは、しばらく後に超常的な力でよみがえり、皆のもとに帰ってくるのが半ばお約束のようになっています。

すぐ思い出せる中だとアニメ デュエル・マスターズ、少し古いですがポケモン不思議のダンジョン 時の探検隊・闇の探検隊なども終盤にそうしたシーンがあったと思います。

私の記憶だと、こうした流れが起きたのはバブル~90年代より大人気を博した鳥山明氏の代表作、ドラゴンボールにおいて、クリリンが生き返ったのが端緒だったかと思います。

当時、このクリリン再生については、死をこんなに安易に扱ってよいのかと、かなりの議論がおきました。けれど、ドラゴンボールの成功に打ち消される形で、そうした問題視する声は途絶えていきました。

70年代までの作品では、こうしたよみがえりは決して一般的ではなかったのです。
ヤマトの沖田艦長も、ファーストガンダムのララアも、霊として現れることはあっても、生き返ったりなどしていません。

もしかしたら、こうした現象がよくみられるようになってるのは世界でも日本コンテンツのみかもしれないと思っています。
海外生まれの子供向け作品では安易に人が生き返るものはあまり見当たりません。
世界を席巻したハリーポッターシリーズでも、亡くなったハリーの両親やアルバス、シリウスがやすやすと生き返るなんて展開はありませんよね。

かつては避けられないもの、耐えるしかないものだった死が
強い祈りや願いを通せば克服できるものとして描かれるようになった・・・。

それまでの「死におびえる人間」というイメージよりも
「死をコントロールする人間」というイメージのほうが日本人の間で強くなっていったのが、この時代だったのではないかと思います。

・・・病気は科学や研究の発展により、近いうちに克服しうる問題である。
死亡事故だって人間のミスゆえに起きたことで、安全対策を強化すれば今後は防げる。
老化さえ研究が進めば止めることができるようになる・・・

日本のテレビが流すアニメや、科学ドキュメンタリーは
漠然とそんな夢を抱かせる内容が多いですね・・・。

 

ではバブル前の日本では、死はどのぐらい身近なものだったのでしょう?

私が幼い頃、ニュースでは頻繁に爆発事故が報道されていました。
あまりによく見るので「どうして、こんなに爆発が多いの?」と親に訊ねたのを覚えているほどです。

けれど現在の日本では爆発は頻繁なこととは言えません。どうしてでしょうか?

調べてみたところ、面白い資料を見つけました。

gus

99年度「建築防災」より

この表をみれば、昭和50年代は、近年の中国を笑えないかもしれないほど爆発事故が多かったことを、ご理解いただけると思います。

当時の日本では引火しやすいタイプのプロパンガス(LPガス)が多くの家庭で使われており、安全対策も行き届いていませんでした。
都市ガスは名前のとおり都市部のみで、まだ普及率は低かったです。

一酸化中毒死を起こすのが都市ガス、爆発するのがプロパンガスだという区別の方法も私たちは大人に教わりました。
プロパンガスでガス漏れの臭いを感じたときは、ガスは下にたまるものだから、決して足元に発火性のあるものを近づけてはいけないとも。

要するに当時の日本は、大人が子供にそうしたことを教えなくてはいけないような世の中だったんですね。

火はコントロールしきれない危険なものとして私たちの身のまわりに常にありました。

仮面ライダー2号を演じた方が、ストーブの上でタオルを乾かしていたところ燃え移って火災になってしまい、生死をさまよう大けがをした逸話もありますね。

当時の私の自宅では風呂を沸かすガスをつけるときも親が自らマッチで点火していました。

「山茶花、山茶花、曲がり角~焚き火だ焚き火だ落ち葉焚き~」という童謡があったように、自宅で枯れ葉やゴミを燃やす焚き火も多くの家庭で行われていました。

簡単に火を起こせるマッチは生活の場のあちこちにあり、子供にマッチ遊びをさせないよう注意することは当時の大人の一般常識でした。

 

また死に至る病気への恐怖も強かったです。

小学生の頃に見た忘れられない2時間ドラマがあります。
土の中から飛び出していた錆びた釘で怪我をしただけで、幼い少女が破傷風になり死んでしまうという内容です。
見た直後は子供心に怖くて怖くて、土の上で転んだりするのが心配でたまりませんでした

破傷風、現在では予防接種によって随分減少しましたが、どのような病気なのでしょう?

(破傷風が)発病すると約30から50%が死亡します。致命率が非常に高い病気です。
日本では毎年約100人が発症します。患者の95%以上が30歳以上の成人です。我が国では破傷風は成人の病気ということができます。成人には免疫がないからです。

1968年以降破傷風ワクチンが乳児小児に定期接種されています。しかしそれ以前に生まれた40歳以上の人はワクチンを摂種していません。その結果、40歳以降の破傷風抗体保有率は低くなっています。だから40歳以上の人に免疫をつけることが必要なのです。
http://www.mimihara.or.jp/ohtori/column16.html

・・・このソース元は少し古いですが、1968年より前の生まれ、つまり現在アラフィフ以上の方にはいまだ破傷風罹患のリスクがあるということですね。
私が見たドラマは再現ドラマだったのかもしれません。

近年の私たちはマスメディアを通して、日本は先進国で安全、清潔と思い込まされていますが、実際はまだ隠れた部分に高度成長期の貧しさを引きずっています。

また70年代まではまだ結核が病死の原因の一位でした。

ドラマでも咳をした後、ハンカチについた血を見て、登場人物が自分の死期が近いことを悟るシーンがよくありました。血を吐いたら死ぬんだと子供心にやきついたものです。

 

また「知ってほしいバブル期前の日本 1970年代の日本」に書きましたように、当時は鳥をペットにしている家庭が多かったです。
今人気の犬猫といった哺乳類ペットより鳥は一般的に寿命が短い。うっかり天気の悪い日に鳥かごを外に出しっぱなしにしておくだけでも、あっけなく死んでしまします。

また自然が多かった分、野生の生き物が多く、その死を見ることも多かった・・・

 

死は現在より、ずっと人間の身近にありました。

死にたくないのに死ぬものの存在を意識していると、生きているものは命を粗末にできないと身をもって感じるものです。

死がない世界は生者の万能感に満ちてしまう。その生者の世界に絶望したら、そこからどうしたらいいと人は考えるのか・・・

 

興味深い作品があります。
「カゲロウデイズ」というタイトルをご存じでしょうか?
あまりテレビでは取り上げられませんが、小~中学生をはじめとする現在の10代の子供たちの間で非常に人気を博している作品です。小説、漫画、アニメなどメディアミックスの下で展開しています。
このカゲロウデイズの生死観は普通ではない、特殊なものです。

(カゲロウデイズとは)永遠に時間を繰り返す世界。
8月15日に死んだある二人の人間を引き込み、
そのうち一人が蛇の能力を身につけて現世に生き返る。
一方でカゲロウデイズから出られなかった人間は、そのまま異空間に留まる。
カゲロウプロジェクト キャラクター・設定まとめ

決められた日に死にさえすれば、不思議な力によって再び今までの人生をやり直せたり、異世界に旅立ったりできるというわけです。
ストーリーの中では複数の若者たちがそのカゲロウデイズに身をまかせて、仲間とともに死んだりよみがえったりします。

死に縁のない生活を送っている子供たちには、逆に死が希望にみえるのかもしれません。

 

自殺率の高さから見て取れるように、今の日本人にとって、死はむしろ逃げ場所になっています。
生活の場から死を排除していったら、自ら死に向かう人が増えた。皮肉なものです。

 
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