ちょっと不安なアドラー心理学。その背景

近年、アドラー心理学が人気を集めているといいます。
アルフレッド・アドラーは20世紀前半に活躍したオーストリア生まれの心理学者。「嫌われる勇気」という、日本人なら気になってしまいそうなタイトルの本がベストセラーになって久しいようですね。

日本人に受け入れられやすいと評する声もあるアドラー。一体どんなものなのでしょう?

判断に迷った時は、より大きな集団の利益を優先することだ。自分よりも仲間たち。仲間たちよりも社会全体。そうすれば判断を間違うことはないだろう

“苦しみから抜け出す方法はたった1つ。他の人を喜ばせることだ。「自分に何ができるか」を考え、それを実行すればよい。”

“「世話好きな人は、単に優しい人なのではない。相手を自分に依存させ、自分が重要な人物であることを実感したいのだ”

“楽観的であれ。過去を悔やむのではなく、未来を不安視するのでもなく、今現在の「ここ」だけを見るのだ。”

“「自分は役立っている」と実感するのに、相手から感謝されることや、ほめられることは不要である。貢献感は「自己満足」でいいのだ。”

https://matome.naver.jp/odai/2140490619738050701

こんな感じの、とても立派な・・・中にはちょっと勘繰りすぎ?と思うような言葉が並びます。

読んでいるうちに、過去にある本を読んだ後の印象が私の中によみがえりました。
ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」「善悪の彼岸」です。

これらを読んだのは30年近く前。芥川龍之介の著作の中にニーチェの名前があって、そこから興味を持つようになったのでした。ドストエフスキーが描くことを得意としたニヒリスティックな登場人物たちの思想が、ニーチェ思想につながるという批評を読んだ影響もあります。

ニーチェが発した「神は死んだ」という言葉、日本人にはあまりピンときませんが、キリスト教の強い欧米においては非常に重いものだったようです。過去には彼の代名詞のような言葉として扱われてました。

ニーチェとアドラー、どこが似てるのか?
・・・うまくいえませんが、私の印象だと

“人間は自分で自分を完全にコントロールすることを目標とすべき”

”本能も感情も意思と理性でコントロールし、自分が自分の主になる。その先に真の幸福が待っている。”

と、考えていそうな点でしょうかね。

・・・調べてみると、アドラーは本当にニーチェに影響を受けていたんですね。

力への意志は、ニーチェの考えによれば人間を動かす根源的な動機である: 達成、野心、「生きている間に、できるかぎり最も良い所へ昇りつめよう」とする努力、これらはすべて力への意思の表れである。

直接の影響を受けたのはアルフレッド・アドラーである。アドラー心理学には力への意思の概念が反映されている
wiki「力への意思」のページより

バブル期以降の日本人って、19世紀生まれのドイツ・オーストリア圏の学者に惹きつけられるところがあるような?

今はアドラーですが、以前はユング、ニーチェ、90年代にはウィトゲンシュタインのブームもありました。

 

ドイツとオーストリア。この二国は同時代に、近代の歴史に最大の爪痕を残した人物も生んでいます。――ヒトラーです。

ドイツとオーストリアは国こそ別れていますが、どちらもドイツ語を使う地域です。ちなみにスイスも方言は強いですが六割以上はドイツ語圏です。

ニーチェ哲学はナチスとの関わりでもよく知られています。英語版wikiによるとヒトラーがニーチェを偉大な人物と呼んだこともあったとか。

今は日本でニーチェが人気があるせいか、ナチスに採用されたのはニーチェの妹の働きかけのせいであって、ナチスとニーチェ自体には距離があると主張する声もネット上に多いようですね。

でも、私がニーチェを読んだ時代は、ナチスに影響を与えた人物として、ニーチェとワーグナーはセットで扱われることが多かったです。

 

ナチスについて、日本で一番よく知られていることはユダヤ人虐殺でしょう。
ユダヤ人は裕福な人が多かったので、貧しい庶民の人気を集めるための政策だったと教えられることが多いかと思います。少なくとも私が学生の頃はそうでした。

けれど、ヒストリーチャンネルで欧米制作のナチスドキュメンタリーを見るに
ナチスの実際の動機は人種選別、民族浄化だったのではないかと思います。
ナチスはユダヤ人だけでなく、ロマ人も同じような収容所に入れて虐殺しています。ロマ人の殆どは豊かさとは縁遠い生活をしています。

日本人に西洋穢多とまで呼ばれたヨーロッパの不可触民、ロマ族をどこまで知ってる?」に書きましたように、ロマ人はインドを起源とする流浪の民です。
またユダヤ人も中東を起源に持つ民であって、ヨーロッパ原住の民ではありません。

先天的な障害を持った者、難病の者もまた虐殺されています。

ナチス幹部らの頭には金髪碧眼で美しく健康な肉体を持つ、アーリア人という理想がありました。アーリア人の流れをくむ美しく優秀なドイツの白人たちが、ポーランド人、東欧のスラブ人といった民を従えて築く国家、それが第三帝国だったのです。

ナチスはアーリア人らしいと思われる容姿と条件をもつ若い男女を青年隊(SS)に入れ、彼らを結婚させるだけでなく、時には乱交のような真似をさせていたといいます。
それで身ごもった子供は「総統の子」と呼ばれ、生まれるとすぐに施設に入れて育てられました。悪名高いレーベンスボルンと「子供の家」ですね。優秀な次世代を育てることが目的でした。
また結婚によって生まれた赤ん坊も、「子供の家」に入れられました。父と母に早く次のアーリア人らしい国民を生ませるために。

アーリア人の流れをくむ金髪碧眼のドイツ人は選ばれた民→そうしたドイツ人同士をかけあわせれば素晴らしい子供ができる

障害者や先天的な病気がある→遺伝子に問題がある→民族の発展の障害になるので排除

・・・要は農作物や家畜の品種改良のようなことを、人間にも当てはめようとしたんですね。

ナチスはまさに人間をコントロールする主になろうとしたわけです。

 

理想的な子供が欲しいゆえに、それにかなった遺伝子を持つ者どうしを人為的にかけあわせる・・・
一見、合理的で科学的に見えますね。

それを正しいと思うかどうかの判断は個人の自由でしょう。

ただ、そうした優秀と思われるものばかり集めたナチス・ドイツという国家が長続きしなかったこと、崩壊後は忌まわしい記録として世界史に刻まれたことは事実です。

「子供の家」で育った子供達が実際は優秀になるどころか、発達の遅れが多発したこともよく知られていますね。

そして、現在、こうしたやり方を採用して人口を増やしている国は先進国含め、どこにもありません。子供を切望する人たちが精子、卵子バンクを利用するとき、遺伝子提供側の髪の色や目の色に関してそんな条件を出しますが、その程度です。

 

ナチス消滅後、ドイツの国土は連合国によって東西に引き裂かれました。

西ドイツは歴史ある首都ベルリンを奪われ、ボンに首都を置く時代がありました。東ドイツはベルリンの壁が消える80年代末まで、非常な貧困に苦しみました。過去に読んだBBC記事によると、庶民はキュウリ一本さえぜいたく品のような生活だったといいます。まるで現在の北朝鮮のような状態でした。

現在のドイツは裕福な国になりましたが、東ドイツで暮らしていた高齢者は今でも当時の苦しみの記憶が体に染みついているといいます。

また、潜伏していた戦争犯罪人の逮捕報道がたまに話題になるように、元ナチスは90代の老人になった現在でも、身分を隠して細々と暮らさなくてはならない状態です。

ナチス幹部の子孫がどこでどうしているのかも、ヨーロッパの大手マスコミは追い続けています。それゆえヨーロッパを離れ、南米等に移住し流浪の民になったケースも少なくないそうです。自らの血を憎み、これ以上子孫を残せないよう自ら避妊手術をした幹部の血縁すらいます。(BS世界のドキュメンタリー「ヒトラー・チルドレン」より)

ナチスは結局、誰も幸せにしない組織で終わったということかもしれません。

それにしても、なぜ、ドイツのような先進国でナチスというものが生まれたのでしょう?

ヒトラーにはアイドル的な魅力があったようですが、彼とて、民による投票によってえらばれた存在。大多数の国民が嫌がることを無理に強要することはできません。

・・・ヒトラーに人気が集まるような心理状態が、当時のドイツ国民の間にあった。
アーリア人らしい容姿だとおだてられ、優秀な血統、遺伝子を持つとされた金髪碧眼の若者たちが、機械的に結ばれ、機械的に子を持つことを嫌悪感なく受け入れる素地が、当時の人々の心にあった・・・。

その時代の社会背景は、どのようなものだったのでしょう?

 

世界的に有名になるだけあって、アドラーも、ニーチェも、よいものを持っています。
しかし彼らの思想が、ナチス政権誕生という不幸な未来を生んだ時代に生じたものであることは、頭の片隅においておいたほうがいいかもしれません・・・

 

ちなみに、今回の記事を作っていて一番驚いたのが
ウィトゲンシュタインとヒトラーが同い年な上、たった6日しか生まれた日が違わなかったということです。その上、同じ学校に通っていたとか(・□・;)

ウィトゲンシュタインは迷いや挫折を乗り越えて努力を積み重ね、幸福な人生をつかんだ人でしたが・・・

 

http://inri.client.jp/hexagon/floorA6F_hb/a6fhb700.html

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